手根管症候群

今回は手の痺れについてのお話をしようと思います。

外来診療でもよく目にする病気であり、手を使う方がよくなる病気です。

その名も「手根管症候群」です。

では説明していきましょう。

手根管症候群

病態

まず、手根管とは何かからお話しましょう。

手根管と「手関節部にある手根骨と横手根靱帯(屈筋支帯)で囲まれた伸び縮みのできないトンネル」のことです。この手根管内には1本の正中神経と9本の屈筋腱が走行しており、この中で正中神経が圧迫されると痺れや痛み、酷い時には筋力低下などが起こります。

ではどういう理由で手根管は狭くなるのか。原因のわからない特発性のものと原因が特定される二次性のものがありますが、日常診療で見かける大半は特発性に分類されます。

  • 特発性:多くはOver useであり、また妊娠、閉経でも生じることがあります
  • 二次性:横手根靭帯の肥厚(関節リウマチやアミロイドーシスなど)や滑膜炎(感染など)、透析・骨折・腫瘍などの占拠性病変

ちなみに罹患率は人ロの3.8%といわれており、また中年の女性に多いです。(閉経でもなると上記で書いておりますが、家事で手をよく使っているのも大きな要因と私は感じています。)

なお、更年期障害と勘違いされる方も多く婦人科から紹介されることもあります・・・

症状

正中神経が圧迫される病気のため、その症状は正中神経の支配領域である母指から環指橈側(親指側)のしびれや感覚障害となります。

特徴的なのは夜間就寝時や早朝に出現する痛みで、「起きたら手を振りたくなる」と表現されることが多いです。

また進行すると正中神経の支配筋である母指球筋の筋力低下、萎縮がみられます。そうなると日常生活ではピンチ力(親指と人差し指でものを掴む力)が落ち、箸の使用や小さいものをつまむ・ボタンかけなどの細かい動作が難しくなります

診断

身体所見

手根管症候群には上記の症状に加えて特徴的な所見があります。

Perfect O sign:OKサインを作ろうとしても丸ではなく、長方形のような形になると陽性です。もっと簡単な判別はOKサインを作ってもらった際に親指の爪が上を向いているか(異常)、斜めを向いているか(正常)でも判断することができます。

(日本整形外科学会HPより引用)

Tinel like sign:手根管の少し腕側を叩くと指先に痺れや痛みがひびく。

(日本整形外科学会HPより引用)

Phalen テスト:手関節屈曲位を1分保つと症状が悪化する。

(日本整形外科学会HPより引用)

ただし、どちらも実際に所見が出るのは7割程度とあまり高くありません。

そのためにその他の検査も必要となります。

他覚的検査所見

X線所見:手根管内の石灰化や骨性病変、キーンベック病、橈骨遠位端骨折変形治癒などの有無を確認し、狭窄の要因を探ります。

ただし、X線では神経は写らないため、以下の検査を追加が必要となります

エコー検査手根管の中枢での正中神経を確認すると肥大し、低エコーを呈していることがわかります。なお、ドプラ法を用いると正中神経深層の屈筋腱周囲に血流信号がみられることがあり、これは屈筋腱滑膜炎を示唆しています。また神経に沿ってエコーを当てると圧迫部位が明らかになることがあります。

(下図のbでは神経の腫大を、cでは矢印部分での神経の圧迫を認めます。)

MRI所見T2強調像での正中神経輝度の増大や手根管近位での正中神経の腫脹などを認めます。

神経伝導速度測定:運動神経終末潜時(motor distal latency:MDL)と感覚神経伝導速度(sensory nerve conduction velocity:SCV)を両側で測定します。MDL>4.4 ms、SCV<44 m/sを診断の基準値とし、その重症度は正常(MDL・SCVともに正常)、軽症(MDL正常・SCV遅延)、中等症(MDLとSCVともに遅延)、重症(MDL遅延SCV検出不可)、最重症(MDL・SCVともに検出不可)と判断しています。

治療

手根管症候群の治療は大きく保存療法と手術療法に分けられます。

保存療法

保存療法は母指球筋萎縮が認められず、滑膜の浮腫や腫脹が著明な病初期に効果が期待できます。

逆に言うと母指球筋の萎縮や滑膜浮腫が著明な症例のほとんどは保存加療の適応にはありません。

運動・仕事の軽減

基本的に手根管の多くはOver useによるものなので手を使う動作を減らすことで腱鞘炎などが軽減し、症状が改善することが期待できます。

しかし、これだけではなかなか改善しないため、以下の方法も合わせて行うことが多いです。

内服加療

NSAIDs:(ロキソニン、セレコックス、ボルタレン、ロルカムなど)

整形外科で使用する一般的な鎮痛薬です。この種の鎮痛は消炎鎮痛を持って効果を出すため、滑膜炎などを改善させる効果が期待できます。

ビタミンB12:メチコバール

文字通りビタミン剤です。神経細胞の酵素の働きを助ける効果があります。つまり、神経を元気にしてくれる薬剤です。これにより圧迫により弱った正中神経を回復させることが目的です。しかし、残念なのが効果が出てくるまでには結構時間がかかるのと、それほど劇的な改善は期待できません。ただ副作用がほとんどないという利点があります。

プレガバリン:リリカ

これは神経細胞の過剰興奮を抑えることにより疼痛、痺れを抑えてくれます。しかし、他の薬より副作用も出やすい印象があります。ふわふわする感じや眠気、浮腫(体重増加)などを訴える方が多いです。そのため最初は体を慣らす目的で少ない量から初めて徐々に量を増しています。

 装具療法(スプリント療法)

手関節部を固定することで、手根管内の浮腫が軽減し、手根管内圧が低下します。その結果として正中神経の血流が増大し症状が改善すると考えられています。

実際に行った印象としては夜間に使用するとやはり朝起きた時の症状が軽減している方が多いため、極めて有効な治療と考えます。

注射療法

上記の治療で改善しない場合に行うことがあります。

これは局所麻酔+ステロイドを手根管内に注射する方法です。

しかし、ステロイド注射によると考えられる腱の変性、あるいは断裂例の報告もあり、その投与方法には、十分注意が必要と考えています。私は基本的に間隔は3か月以上あけること、合計2~3回までで改善しない場合は手術加療に踏み切るべきと考えています。

手術療法

注射でも症状が再燃する場合やすでに母指球筋が萎縮している場合、手関節滑膜炎が著明な場合は手術加療を行います。

基本は横手根靭帯を切離し、正中神経の除圧をすることが目的となります。

手根管解放術

初期であれば直視下手根管開放術(open carpal tunnel release: OCTR)または鏡視下手根管開放術(endoscopic carpal tunnel release:ECTR)が行なわれます。

手根管解放術単独の場合の皮膚を切る範囲は下図程度となります。

ここから横手根靭帯を切る方法が直接見てハサミ(形成剪刀)で切るのかそれとも内視鏡で行うかの違いだけです。直視下でも内視鏡視下でもあまり術後成績には変化はありません。

従来法

これも手根管解放術に当たりますが、手関節滑膜炎が著明な場合にはこちらを選択することもあります。

この方法は手関節をまたいで大きく皮膚を切り、屈筋腱の周囲の滑膜炎も切除する方法です。

対立再建術

これは母指球筋が萎縮し、ピンチ力が低下したことにより日常生活に支障をきたしている患者に対して行う方法です。

長掌筋腱を用いて母指の対立運動を改善する方法です。尺側手根屈筋腱で滑車を作成した後、短母指伸筋腱と長掌筋中枢端を結ぶことで母指の対立運動(親指と小指をくっつける動作)を再建します。

以上が手根管症候群の説明になります。

特に朝方手が痺れるなという方は是非近隣の整形外科を受診して上記の検査をしてもらってはどうかと思います。

ではでは!!

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